本文は、「資本市場リサーチ」（編集・発行：みずほ証券／日本投資環境研究所）第40号より転載

・ 経営者が企業の実態を把握し、戦略的意思決定を行っていくうえで、財務諸表や管理会計の数字を読み解く力は必須である。本稿は、次世代経営者を目指す非財務系幹部候補生を念頭に、経営者的観点から財務諸表を読み込み、収支構造を分析し、投資判断を行うためのプラットフォームを提供することを目的としている。・ 本稿では、まず財務3表の関係を説明した後、財務諸表分析と収支構造分析の手法を解説する。経営者的観点から財務諸表を分析し収支構造を把握する場合に重要なのは、「比較する」「分解する」「大雑把に正しく」の3原則である。・ 財務諸表分析の基本は、分析対象企業のP/LやB/Sを数期分並べて比較する「時系列分析」（縦比較）と、同業他社の直近期のP/LやB/Sを並べて比較する「同業他社比較」（横比較）である。ここで重要なのは、財務諸表分析でわかるのは、診断で例えると「熱があるな」「このあたりに問題がありそうだ」までであって、真の原因まではわからないということである。財務諸表分析は、問題発見のツールであり、究明すべき問題につき仮説を立ててさらに調べていく「出発点」である。・ 次に、財務諸表の実数を分解して、収支構造を把握する。分解のやり方には部門別分解、製品別分解、費目内訳分解、変動費・固定費分解など色々あるが、最も重要なのは、「数量×単価」分解である。売上高やコストを数量×単価に分解することにより、会計数字を現場のオペレーションと突き合わせることができる。財務諸表の実数を色々な形に分解することで、財務諸表分析で抽出された疑問点につき、「その原因はなにか」「どうすればいいか」を探求していくことができる。・ 収支構造を把握して実績値を収支構造モデルの形に再構成すれば、それがそのまま収支予測モデルとして使用できる。本稿では最後に収支予測と投資判断・企業価値評価について設例を用いて解説する。・ なお、経営的観点から全社の財務分析を行い、収支構造を把握しようとするときに、最終的な損益に影響の少ない部分をあまりに緻密に分析すると、かえって大局を見失ってしまう。ケインズが言うように「精緻に間違っているよりも、大雑把に正しい方が良い」のである。

2016-07

Japanese(jpn)

journal article

VoR

AA1285312X

資本市場リサーチ

40

84

130

010a Journal Articles　=　雑誌掲載論文

https://hdl.handle.net/10086/31012